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【事業アイデアの創出#07】意味のイノベーション

本シリーズでは7回に渡って、事業アイデアの創出について手法や事例をご紹介いたします。


・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない

・新規事業チーム内の共通認識を作りたい


といった方々のお役に立てますと幸いです。


本シリーズ・事業アイデアの創出に関する記事の一覧



意味のイノベーションと蝋燭


ここからは、「課題解決によるイノベーション」と対照的な概念である「意味のイノベーション」についてご紹介していきます。


「意味のイノベーション」は、イタリア、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授によって提唱された概念です。同氏の著作「デザイン・ドリブン・イノベーション」「突破するデザイン」にその論考が収められています。 デザイン思考が問題解決によるイノベーションであるのと対照的に、意味のイノベーションでは商品の意味付けを戦略の中心に置きます。既存の製品やサービスに新しい「意味」を持たせる、あるいは見つけることでイノベーションを起こす手法であると説明されています。


意味のイノベーションの代表例としてよく蝋燭が挙げられます。蝋燭は電気が発明される以前、手元を明るくするための機能的なものでした。その時代の蝋燭の価値は「長い時間火が灯り続けること」「消えにくいこと」でした。しかし電気が普及した現代、灯りとしての蝋燭に以前と同様の機能的価値を求める必要が無くなったにも関わらず、蝋燭の売り上げは世界的に落ち込んでおらず、むしろ市場としては拡大傾向にあります。その理由は蝋燭の持つ意味自体が変わったからです。


今日では精神的なリラックスやロマンティックなムードの演出、さらにアロマキャンドルは芳香剤としての機能も果たしています。これが蝋燭に起こった「意味のイノベーション」です。



このように「意味のイノベーション」では、製品やサービスの機能は変えず、ユーザーに受容される意味や文脈を再開発し、新たな価値を創出することを目指します。




意味のイノベーション事例:森永製菓「森永ラムネ」


1973年に発売を開始した森永製菓のロングセラー商品「森永ラムネ」は、発売当初からブドウ糖90%という配合にこだわってきました。同社では、瓶入の飲料のラムネを再現するため、「ブドウ糖が水分に反応する吸熱作用により口の中でシュワシュワとした爽快感が得られる」点を活かし、ブドウ糖90%という配合にこだわりを持ち、製造・販売を続けてきました。意外にも、森永製菓以外の市販のラムネ菓子ではブドウ糖が主原料として用いられることはめずらしく、森永ラムネは発売当初から大きな「見えない」特徴を持っていた製品でした。




子ども向け菓子として長く親しまれてきた「森永ラムネ」は、ブドウ糖成分の含有率の高さがSNSを中心に注目を集め、2014年ごろから大人にも積極的に購入される商品となりました。そうした市場の変化をいち早くキャッチし、森永製菓ではブドウ糖が「二日酔いに効果的」「集中力を要するデスクワークや勉強におすすめ」といったプロモーションを行っていきました。


また、こうしたニーズで商品を購入する顧客への調査結果から、プラスチックパッケージをパウチに変更し、成分をブドウ糖中心に見直し、従来の粒より大粒にした「大粒ラムネ」を2018年に発売しました。「大粒ラムネ」は当初の年間販売計画数量を発売後1カ月足らずで売り切るという成功を収めています。 


ここで起こった意味のイノベーションは、森永ラムネの主成分であった「ブドウ糖」に対するものです。成分という見えない特徴を軸に、「ラムネを食べる意味」を再開発し、顧客に意味と機会を提供することで、「森永ラムネ」は子供向けの駄菓子というジャンルから特定の機能性を持つ食品へ変化を遂げました。こうした事例は意外と気付きづらいものですが、身近で大きなイノベーションであるといえます。



意味のイノベーション事例:P&G「アリエール」


製品自体のみならず、顧客の日常的な行為の価値までを変えた事例として、P&G(プロクターアンドギャンブル)の洗濯洗剤シリーズ、アリエールをご紹介します。


アリエールは1997年「アリエール・ピュアクリーン」という商品ではじめて洗濯洗剤の価値に「除菌」を持ち込みましたが、当初の売れ行きはあまりいいものとは言えませんでした。というのも、当時粉末洗剤の市場は、洗剤の小型化や少量化に成功した花王のアタックが圧倒的な立場であり、アタックブランドの代名詞であった「小さい洗剤」や「白い洗い上がり」が、そのまま消費者が洗濯洗剤に求める機能として市場の意見が確立されていたからです。


そうした市場環境の中、P&Gのアリエールチームが実施したインタビューでは「除菌」という機能に対する消費者の反応はとても冷ややかでした。 しかし、アリエールチームは「菌が多いシャツと菌が少ないシャツ」なら、おそらく大半の人は菌の少ないシャツを選ぶはずという確信がありました。 除菌に価値がないわけでなく、除菌をそのまま機能として訴求しても響かないと調査結果を前向きに解釈し、重要なのは機能訴求の工夫ではなく、消費者にきちんと伝わるベネフィットであると判断しました。



そこでチームは、商品の機能訴求ではなく「通常の洗濯では菌が残っている」ということを世の中に気づかせ、「洗濯では除菌が重要」という方向に市場の意見を先導しました。「奥さんご存知でしたか?」という台詞から始まる本製品のCMは多くの人の記憶に残っているのではないでしょうか。


 アリエールチームはこうした活動を経て「いい洗剤=除菌ができる洗剤」「アリエール=除菌」という認知の変化とブランドイメージを確立しました。それに追従するように現在では多くの洗濯洗剤が除菌機能を訴求するに至っています。本事例は製品自体の意味のみならず、洗濯という消費者の日常的な活動の価値までを変化させた事例として、大変参考になるものです。


意味のイノベーションの効用


意味のイノベーションはアイディエーションの4分類のうち「マーケットドリブン」と「コンペティタードリブン」を掛け合わせた発想といえます。


競合他社を含め、自社の事業領域や顧客、製品やサービスの根源的な意味を見つめ直すことがそのきっかけになります。デザイン思考を中心とするマーケットドリブンなイノベーションにおいては、イノベーター理論やキャズム理論に代表されるように、顧客や市場の漸進的な変化を元にします。意味のイノベーションにおいては、森永製菓の「森永ラムネ」やP&Gの「アリエール」といった事例のように、急進的な変化を創出することが可能であるという点が特徴であり利点です。



こうした事例からイノベーションには様々なアプローチがあること、そして多角的に模索することによる可能性を感じていただけますと幸いです。


さいごに

ここまで7回に渡り新規事業のアイデア創出についてご紹介してきました。最後にお断りをしておくと、これらは新規事業を創出するにあたり知っておきたい基本的な概念となります。実際のプロジェクトではこうした基本的な知識のほか、さらに専門的な業界やビジネスの知識や経験が求められます。


私たちILY,は様々なデザインプロジェクトの支援を行っています。ぜひお困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。


 

【参考書籍】

 ・秦充洋『事業開発一気通貫 』日経BP出版、2022年・北嶋貴郎『新規事業開発マネジメント』日本経済新聞出版、2021年

・前野隆司 『システム×デザイン思考で世界を変える 慶応SDM「イノベーションの作り方」 』 日経BP出版、2014年


・ロベルト・ベルガンティ 『デザイン・ドリブン・イノベーション 』クロスメディア・パブリッシング、2016年

・ロベルト・ベルガンティ 『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる 』日経BP出版、2017年



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