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【カスタマープロブレムフィット#03】顧客のインサイトを理解する

本シリーズでは3回に渡って、新規事業創出における検証と顧客開発、カスタマープロブレムフィットに向けた取り組みについてご紹介いたします。


・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない

・新規事業チーム内の共通認識を作りたい

・新規事業創出にあたる検証活動を理解したい


といった方々のお役に立てますと幸いです。


本シリーズ・新規事業創出における検証と顧客開発、カスタマープロブレムフィットに関する記事の一覧




インサイトとは何か?


新規事業開発の場面では「インサイト」という言葉が頻出します。重要な概念ですので、ここで「インサイト」について理解を深めておきましょう。インサイトは日本語に訳すと「洞察・発見・直感」となり、マーケティング用語では「消費者の隠れた心理」を意味します。事業開発文脈で使われるインサイトは後者を意味し、図で表すと下記のようになります。



インサイトとは無意識のもっと奥、顧客本人も認知できていない深層心理に秘められたものであるということです。 この図をより理解するために自動車メーカー・フォードの逸話をご紹介します。


「もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう」これは、マーケティング界隈で使用される「顧客に聞いても、顧客の要望はわからない」という意味で使用されるヘンリー・フォード氏の有名な言葉です。ヘンリー・フォードはフォード・モーター・カンパニーの創設者で、中流階級の人々が購入できる自動車を生産し、広く普及させた立役者です。自動車が普及する前のアメリカでは、主な交通手段は馬車でした。



フォードは自動車を知らない中級階級の人々に何が欲しいか質問しても、もっと早い馬が欲しいとしか答えられないと推測し、馬車にこだわらず、「速く移動したい」というインサイトを発見し、当時上流階級のものだった自動車を中流の一般家庭でも購入できるよう設計し販売しました。


当時の中級階級は自動車という存在を知らなかったため、そもそも「自動車が欲しい」というニーズは表出し得ません。隠れたインサイトは「早く移動したい」であり「早い馬」ではないということです。聞き取り調査やその後の分析で注意したいのは、ターゲットの言葉を鵜呑みにするのではなく、その背後に隠れた根源的なインサイトの発見が何よりも重要であるということです。


聞き取り調査の際に「こういうサービスや製品があったら使いますか?」というダイレクトな質問がNGである理由も、こうしたインサイトにリーチする機会を失う可能性があるから、というようにも理解できるのではないでしょうか。


インサイトとジョハリの窓


では、この段階でどのようなインサイトを発見することを目指すべきでしょうか?


一口にインサイトといっても、様々な粒度があり、その質的な評価が難しいことは確かです。しかしながら「良質なインサイト」の定義は、ジョハリの窓というフレームワークを用いることで説明できます。ジョハリの窓は、もともと自分と他人の間のコミュニケーションをモデル化したものですが、マーケティングや事業仮説の構築に活用することができます。 


新規事業創出におけるリサーチでは定量・定性調査を通じた仮説検証を行う課程でさまざまな発見や情報を収集していくことになりますが、それらは下記図のような4象限に分類しマッピングすることが可能です。


1は開放の窓、誰でも知っているような一般常識や基本的な知識・情報が当てはまります。次に盲点の窓、自分自身は知らなかった・気付かなかったが、他人は気づいている情報、これはいわゆる学習、学びに近い発見や体験です。それから秘密の窓、自分は知っているが相手は知らない情報、盲点の窓と逆で教育、つまり自分が相手に教えるに近い体験です。そして未知の窓、これは自分も相手も知らない情報で、まだ多くの人が気づいていないような機会や考えを指します。


このうち「良質なインサイト」と定義できるのは「未知の窓」に当たる情報です。こうした情報は当然ながら、インタビュアーもインタビューイも事前に持つことができないため定量調査における質問項目にも、記述式アンケートにも表出することはありません。 定性調査においては、こうした「未知の窓」に類する情報を獲得することを目指し、実施することが望ましいと考えられます。


インサイトとジョブ理論


次に紹介するフレームワークは「ジョブ理論」です。


ジョブ理論はハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授によって提唱された、顧客の購入動機を探る方法であり「人がどのようなものを買い、どのようなものを買わないか」を説明するマーケティング理論の一つです。概念図とともにご紹介いたします。 



あるファーストフード店は「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか?」という課題を抱えていました。お店から委託を受けたコンサルティング会社は、顧客にアンケートを取り、商品の値段や味・量などの希望を聞き、それを基に商品を改良しました。しかし、顧客のニーズ通りの商品を販売したにもかかわらず、売り上げは増えませんでした。コンサルティング会社から依頼を受けたクリステンセン教授のチームは、「ミルクシェイクの購入を通して、顧客は何を得たいのか?」調査しました。


午前9時前にミルクシェイクを購入した人を調査した結果、ミルクシェイクを購入する理由(=解決したいジョブ)は「仕事先までの長時間の運転で退屈をしのぎたい」ということでした。どろっとしていて飲むのに時間がかかるミルクシェイクは、長時間ドライブの退屈しのぎとして最適だったのです。味や値段などの理由で購入していた訳ではないので、それらを変えても売り上げが上がらなかったのは、当然でした。


また、休日の午後に訪れる人は、「子供にミルクシェイクを買ってあげて、優しい父親の気分に浸りたい」というジョブを解決するために、ミルクシェイクを購入していました。同じ商品でも、購入する顧客層によって、購入する理由(=解決したいジョブ)は異なるということです。 

このニーズやジョブの構造を図示すると上記のようになります。ジョブパフォーマーはユーザーやターゲット、顧客を指します。ソリューション=採用されている既存の製品やサービスはミルクシェイクであり、それらの機能は「できること」としてまとめられます。 ジョブ=彼らが解決したい課題とし、ソリューションはそのために選ばれる手段とします。 例えば発見した事業機会に対し、すでに先行商品やサービスがある場合はこうしたフレームワークを用いることで、「顧客のジョブ=顧客が本当に解決すべき課題やタスク」として分析することができるようになります。


ジョブ理論は既存事業の改善や、カスタマープロブレムフィット以降のソリューションプロブレムフィット、プロダクトマーケットフィットの検証においても活用できるフレームワークです。


カスタマープロブレムフィットを目指して何度も繰り返す


ここまでカスタマープロブレムフィットについて、その目的や手法についてご紹介してきました。本章の最後にお伝えしておきたいことは、カスタマープロブレムフィットに関する仮説や妥当性の検証は非常に重要であり、後続する全ての活動の根本になるものであるということです。



仮説についてもさまざまな角度から検証し、何度も定量・定性調査を繰り返しながらチーム全員でしっくりくるまで検証活動を繰り返すことが重要です。 事業機会に対してさまざまな角度から、ターゲットや顧客のインサイトの源泉を探索することが求められます。


もしカスタマープロブレムフィットの段階でインサイトを発見できなかった場合はアイデア発想に立ち戻り、アイデアの評価からプロジェクトをやり直す判断をすることも必要です。こうしたプロジェクトの推進はチームとの情報共有や前提条件のすり合わせなどが重要になりますので、ぜひご紹介したフレームワークなどを活用し共通認識の醸成などにお役立てください。


さいごに

ここまで3回に渡り事業創出における検証と顧客開発、カスタマープロブレムフィットについてご紹介してきました。最後にお断りをしておくと、これらは新規事業を創出するにあたり知っておきたい基本的な概念となります。実際のプロジェクトではこうした基本的な知識のほか、さらに専門的な業界やビジネスの知識や経験が求められます。


私たちILY,は様々なデザインプロジェクトの支援を行っています。ぜひお困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。


 

【参考書籍】

・秦充洋『事業開発一気通貫 』日経BP出版、2022年

・北嶋貴郎『新規事業開発マネジメント』日本経済新聞出版、2021年


・クレイトンMクリステンセン『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ・ ジャパン、2017年

・アッシュ・マウリャ『リーンスタートアップ成長戦略』 日経BP出版、2017年

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