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【企業価値を高めるWeb戦略#02】上場企業コーポレートサイトのデザイン事例比較



企業のコーポレートサイトは、単なる会社案内ではなく 投資家や顧客、取引先、求職者などステークホルダーとの重要なコミュニケーション手段です​。上場企業の場合は特に、IR情報の開示や企業ブランドの一貫性など求められる要素が多く、サイト上でそれらを的確に伝える必要があります​。


近年では スクロールに応じた動的表現 や SDGs/ESG情報の強調表示 などがトレンドとなっており​、各社が創意工夫を凝らしたUX/UIデザインを取り入れています。また、コーポレートサイトは企業の「顔」としてブランドイメージを体現し、ユーザーに信頼感を与えるデザインであることが重要です​。


以下では、実際の上場企業のコーポレートサイト事例を3社以上紹介し、それぞれの業種に応じたWeb戦略、UX/UIデザイン、情報設計、ステークホルダー別の工夫、ブランド表現方法、ユニークな機能に注目して比較していきたいと思います。


事例① 資生堂(化粧品業界)

資生堂は日本を代表する化粧品メーカーで、そのコーポレートサイトは製品の高級感と調和した おしゃれで洗練されたデザイン が特徴です。トップページでは大胆にも ナビゲーションメニューとブランドメッセージ動画のみ を配置したミニマルな構成で、直感的にブランドの世界観を伝えています​。

メニューにカーソルを合わせると各コンテンツ項目(会社案内、ブランド情報、サステナビリティ、研究/生産、採用情報、投資家情報、ニュースリリース等)が展開され、ユーザーは迷わず目的の情報に辿り着けます。グローバル企業らしく日本語・英語・中国語に対応し、世界中のステークホルダーに情報発信できるよう配慮されています。


デザイン・UIの特徴:

白を基調にコーポレートカラーの赤をアクセントとして配置し、余白を活かした上品なビジュアルに仕上げています。ファーストビューで流れる動画ではモデルの映像「美の力で世界を変える」等のメッセージを融合し、ブランドの価値観を強く訴求しています。動的なコンテンツを抑えつつも、洗練されたタイポグラフィと高解像度のビジュアルで専門性と品質の高さを印象付けています​。


情報設計とステークホルダー配慮:

グローバルナビゲーションに投資家情報やサステナビリティ情報、採用情報など上場企業に必須のコンテンツを明示し、投資家・求職者それぞれが必要な情報に迅速にアクセスできる構造です​​。例えば「投資家情報」では財務ハイライトやIR資料が整理され、また「サステナビリティ」では資生堂のESG活動やレポートを確認できるようになっています。これらをトップメニューに含めることで、投資家・取引先・求職者への配慮と開示姿勢を示しています。


ブランド価値の表現:

シンプルなトップページに込められた大胆さ自体が「資生堂らしさ」を体現しています。洗練された美のイメージを損なわない統一感ある色使いや各ページに散りばめられた上質な写真と言葉遣いにより、エレガントで信頼感のあるブランドストーリーをサイト全体で語っています​。例えばブランドヒストリーのページでは創業からの物語を豊富なビジュアルとともに紹介し、ステークホルダーに資生堂の伝統と革新を感じさせます。


ユニークな機能・コンテンツ:

資生堂サイトでは、グローバルメニューのホバーでコンテンツ内容をプレビュー表示するメガメニューを採用しており、ユーザビリティを高めています​。またトップの動画背景は動的コンテンツながらページ表示の快適性にも配慮され、軽量化された映像が使用されています。さらにニュースリリース一覧では絞り込み検索やソート機能を提供し、プレス関係者や投資家が必要な情報を探しやすいよう工夫されており、全体のユーザビリティを高める要因になってると考えられます。




事例② 任天堂(ゲーム・エンターテインメント業界)

任天堂のコーポレートサイトは、ゲーム会社ならではの 華やかでワクワクするデザイン が際立っています​。コンシューマ向け製品(Nintendo Switchなど)の公式サイトと企業情報サイトが一体化しており、トップページでは 注目ゲームやサービスが大きく紹介 されるなど、訪れたユーザーを楽しませる仕掛けが随所に見られます。


デザイン・UIの特徴:

彩度の高い画像や人気ゲームのキャラクターを背景に用いることで、エンターテインメント企業らしい賑やかさを演出しています。一方でレイアウト自体は整理されており、ヘッダーやフッターに主要メニューを配置して情報への導線を確保しています。トップページ上部に動画やスライドショーで最新ゲームを紹介しつつ、その下にはニュースや製品情報、企業情報へのリンクがグリッド状に整然と配置され、初見のユーザーでも迷わないよう工夫されたデザインです。


情報設計とステークホルダー配慮:

任天堂公式サイトでは、ゲームファン向けのコンテンツ(製品紹介・サポート情報等)に加えて 「企業情報」「IR情報」「採用情報」 といった項目も同一ドメイン上で提供しています​。つまり顧客(プレイヤー)から投資家・求職者まで幅広い層が一つのサイトで目的を達成できる構造になっています。実際、「さまざまなキャラクターの情報、サポート、企業・IR・採用情報などをご紹介します」と公式に謳われており​、ゲームファンがキャラクター情報を楽しむ傍ら、投資家は決算短信や経営方針を、求職者は採用ページで企業理念や社員紹介を閲覧できるようになっています。


ブランド価値の表現:

サイトにはマリオやポケモンなど 任天堂のキャラクターが豊富に散りばめられ​、企業メッセージにも「ゲームで世界中の人々を笑顔にする」といったフレーズが登場するなど、“ユーザーを楽しませたい”という企業姿勢が色濃く反映されています​。色使いもグレーや白をベースにしつつ、要所で赤(ロゴ色)やカラフルなゲーム画像を配置し、真面目さと遊び心を両立したデザインです。これにより、投資家やビジネスパートナーに対しては健全な企業イメージを損なわずに、任天堂らしいクリエイティブな魅力を伝えています。


ユニークな機能・コンテンツ:

任天堂サイトならではの特徴的なコンテンツとして、トップページに 「キャラクター」 のメニューがあります​。これをクリックすると自社ゲームに登場するキャラクターの紹介ページへ飛び、各キャラクターの詳細プロフィールや関連ゲームタイトルが表示されます​。コーポレートサイトに遊び心のあるキャラクター図鑑を設けているのは非常にユニークで、ファン層のエンゲージメントを高める仕組みと言えるでしょう。また「株主・投資家向け情報」ページでは経営方針やマルチステークホルダー方針​など任天堂独自の経営情報を発信しており、経営層・投資家への情報提供も充実しています。




事例③ 良品計画(無印良品|小売業)

無印良品を展開する良品計画のコーポレートサイトは、シンプルさの中に情報を凝縮したデザインが特長です。​

デザイン・UIの特徴:

全体に無印良品の製品やブランドのイメージにマッチした 落ち着いた色調と余白を活かしたクリーンなレイアウトになっており、まさに無印良品の店舗やカタログを彷彿とさせる佇まいです​。派手な装飾や派生アニメーションは控え、フォントやアイコンも統一感のあるシンプルなものを使用しています。その代わりに高品質な写真を要所で大きく配置し、例えば商品の素材や製造風景などを写すことで誠実さと物づくりへのこだわりを表現しています。トップページでは最新情報を大きな画像と簡潔なテキストで紹介し、視覚的に引きつける工夫も見られます​。


情報設計とステークホルダー配慮:

コンテンツはカテゴリごとに明確に整理され、ユーザーが 回遊しやすい 構造です。ヘッダーには「企業情報」「IR情報」「サステナビリティ」「無印良品について」「採用情報」等のメニューが並び、株主・投資家はIRページから決算情報を、求職者は採用情報から企業の人材観や募集要項をすぐ確認できます。また「無印良品について」ではブランドの歴史や理念を紹介し、ブランドファンやパートナー企業に企業価値を伝える役割を果たしています。さらにニュースリリースや最新情報は件数が多いことを考慮し、キーワード・年別・タグで検索できるアーカイブ機能を実装​。これにより報道関係者や調査をするユーザーも大量の情報から目的のものを探しやすくなっています。


ブランド価値の表現:

余計な装飾を排したミニマルデザインそのものが 無印良品のブランド哲学(シンプル・質実剛健)を体現しています。サイト上では「感じ良いくらし」を実現するための活動レポートや、地域社会・環境への取り組みといったストーリー性のあるコンテンツも掲載し、単なる商品紹介に留まらないブランドストーリーテリングを行っています。例えばサステナビリティのページでは環境負荷低減のプロジェクトを写真付きで定期発信し、ブランドの価値観を言語とビジュアルで訴求しています。


ユニークな機能・コンテンツ:

良品計画サイトではコーポレートサイトでありながら右上に「ネットストア」へのリンクボタンを常設している点も特徴的です​。これにより、投資家・求職者だけでなく製品に関心を持った一般ユーザーがそのままECサイトで商品を閲覧・購入できる導線を確保しており、コーポレートブランディングと顧客体験の両立を図っています。




事例④ ヤマトホールディングス(物流・運輸業界)

宅配便大手「クロネコヤマト」で知られるヤマトホールディングスのサイトは、利用者の目的別に入り口を明確に分けた独自のUIが際立ちます。

全てのユーザーの入り口となるサイト:https://www.kuronekoyamato.co.jp/
全てのユーザーの入り口となるサイト:https://www.kuronekoyamato.co.jp/

左側に大きく「個人のお客様」「法人のお客様」「企業サイト(会社情報)」「採用情報」とアイコン付きメニューが配置されており、訪問者は自分の属性に合った区画にスムーズにアクセスできます。右側にはヤマト運輸のトラックや航空機、ドローンのビジュアルとともに「荷物のお問い合わせ(追跡)」「クロネコメンバーズ(会員)ログイン」などのボタンが配置され、サービス利用者向けの機能を直ちに提供しています​。

企業・投資家向け情報:https://www.yamato-hd.co.jp/
企業・投資家向け情報:https://www.yamato-hd.co.jp/

デザイン・UIの特徴:

ヤマトのコーポレートカラーである 黄色と黒 を基調に用い、視覚的にブランドを想起させるデザインです​。背景は余計な装飾を排したシンプルな白とグレーとし、その上に黒猫のロゴや黄色のアクセントを効かせています。レスポンシブ対応でスマートフォン表示でも各種メニューにワンタップで飛べる工夫がなされており、ユーザーのデバイスを問わず快適に利用できるUIとなっています。


情報設計とステークホルダー配慮:

トップの大型メニューによって、エンドユーザー(個人顧客)と法人顧客、そして投資家・報道関係者(企業情報)、求職者を明確に振り分けています。例えば個人客は「個人のお客様」を選べば荷物追跡や集荷依頼などのサービスページに、投資家やパートナー企業は「企業サイト」をクリックすれば会社概要やIR情報にすぐ遷移できる導線です。このように ユーザー層ごとにサイトの入り口を分岐 させる設計は他社にないユニークな取り組みで、各ステークホルダーのニーズに合った情報提供を迅速に行っています。また、「企業サイト」内では環境・社会貢献活動や経営戦略をまとめたページを用意し、取引先や自治体など広範なステークホルダーへの情報も網羅しています。


ブランド価値の表現:

ヤマトは「次の運び方をつくる。」というキャッチコピーを掲げており、サイト上でもドローンや貨物機を描いたビジュアルによって 革新性と信頼感を打ち出しています​。創業からの歴史や社会インフラとしての責任感といったブランドメッセージは、「企業サイト」内のコンテンツ(社長メッセージやCSRレポート等)でしっかり伝達されています。トップページには敢えてサービス紹介を全面に出しすぎず、ビジュアルと言葉でブランドの未来志向を示すことで、単なる宅配会社以上の企業価値を表現しています。


ユニークな機能・コンテンツ:

ヤマトサイト最大の特徴はやはりトップページのユーザー分岐ナビゲーションですが、その他にも実用性の高い機能が組み込まれています。常時表示の「荷物のお問い合わせ」ボタンからは追跡システムに直行でき、ユーザーの目的を一手で果たせます。また「クロネコメンバーズ」「ヤマトビジネスメンバーズ」といった会員ログインもトップ画面で受け付けており、コーポレートサイト上でサービス利用を完結できる点はユニークです。さらに「重要なお知らせ」として物流影響情報(例:交通規制に伴う配送遅延)がトップに表示されるなど、ステークホルダーへの迅速な情報提供を兼ねている点も見逃せません​。





企業別特徴の比較

以上4社の事例ではサイト設計や戦略の観点でそれぞれ業種やターゲットに合わせた工夫が見られ、ナビゲーション構造からビジュアル表現、機能実装まで企業ごとに個性が光っています。


各社ともナビゲーション構造やコンテンツ配置に工夫が見られ、自社のターゲットとするステークホルダーに最適化したUX設計を行っている点が共通しています。一方で、そのアプローチは企業の性格によってさまざまです。


例えば、資生堂はミニマルなトップページでブランドの高級感を演出しつつ、投資家や求職者への情報提供も怠らないバランス設計です。一方任天堂はエンタメ企業らしくユーザーを楽しませるコンテンツを前面に出しながらも、企業情報を整理して提供しています。良品計画はシンプルさを極めることでブランド哲学を体現し、情報量が多くてもユーザーが迷わない工夫を凝らしています。ヤマトHDは明確なユーザー分類と実用機能の提供によって、多様な訪問者のニーズに即応しています。




おわりに

上場企業のコーポレートサイトは、それぞれの業種特性やブランド戦略によってデザインや機能に違いが見られます。重要なことは、単に見た目を良くするだけでなく「誰に何を伝えるサイトか」を明確にし、ナビゲーションやコンテンツによってUXを最適化を行い、ビジュアルと言葉のすべてで統一的に企業価値を伝えることです​。


今回比較した事例から、ステークホルダー視点に立った情報設計やブランドらしさの表現方法、そしてユーザーエクスペリエンスを高めるための様々な工夫を学ぶことができます。自社サイトを検討する際も、自社のミッションやターゲットにふさわしい設計を追求していくことが成功のポイントと言えるでしょう。本記事が皆様のサイト設計のお役に立てると嬉しいです。





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